北海道の交通を考える連続セミナー 第二回「鉄道と地域交通」に参加して来ました
去る2018(平成)年10月19日に、札幌市厚別区の北星学園大学にて、日本福祉のまちづくり学会事業委員会・北海道支部、北星学園大学経済学部、中央大学研究開発機構、交通エコロジー・モビリティ財団の4団体共催による交通系セミナー「北海道の交通を考える連続セミナー 第2回 『鉄道と地域交通』」が開催されました。
聞くところによると、この「北海道の交通を考える連続セミナー」は、今年2018(平成30)年7月に第1回が開催され、その時は「身近な生活と交通(北海道の交通を考える)」というテーマで地域の生活交通のあり方を議論したそうですが、第2回のテーマは、表題のタイトルの通り、
『鉄道と地域交通』
がテーマ。
北海道民の重要な関心ごとのひとつである「北海道の鉄道(≒JR北海道の存廃問題)と地域交通」を、過疎化及び人口減で大幅な利用増が見込めない状況下で、今後どのようにしていけば良いのかを議論するのが目的でした。
基調講演は北大岸准教授が担当
主催の日本福祉のまちづくり学会事業委員会・北海道支部長(北星学園大学鈴木教授)及び交通エコロジー・モビリティ財団松原氏による挨拶の後、北海道大学大学院工学研究院岸准教授による基調講演が始まります。基調講演のテーマは、
「鉄道の路線存廃問題を経て北海道の将来の交通をどのようにつくっていくべきか」
でした。
岸准教授は『北海道運輸交通審議会 地域公共交通検討会議』内の「鉄道ネットワーク・ワーキングチーム・フォローアップ会議」の座長を務められた方。
北海道の将来を見据えた鉄道網(維持困難線区)のあり方について、約1年間議論を重ね、指針として取りまとめた中心的な方であります。
基調講演では、主に約1年間のフォローアップ会議の活動報告的な内容でしたが、
- 地域の皆さんがJRを利用していない中で、果たしてJRは本当に必要なのか?→地域にとって、最適な交通機関とは?と考える必要があるのではないか。
- 鉄道の必要性を形に示す→数字で議論する、利用促進を形にする(結果を数値化して検証する)ことの重要性
- 人口減少なのだから利用者は増やせるわけがない・・・とはいってほしくない。
- 地元負担ゼロでが鉄道は残すことができない。
- 指針でまとめた北海道の公共交通ネットワークの考え方(「幹線交通」「広域交通」「市町村内交通」)
- 座長総括の作成に至った経緯
- 地域は自発的にするべきことをすべき→人任せにしている地域はやがて取り残される。
- 北海道交通政策総合指針にも書かれている「シームレス交通戦略の実現」に向けて(外国や実現に向けて動いている十勝の事例などのも紹介)
- 10月20日に行われた6者協議の見通し
因みに、岸准教授が作成・公表した座長総括は、北海道総合政策部交通政策局のページ内「岸座長総括(取りまとめにあたって)」で見ることができます。
JR北海道と国土交通省からの現状報告
基調講演の終了後、休憩を挟み、北海道旅客鉄道(JR北海道)と国土交通省から、北海道における鉄道・バス交通の現状報告がありました。JR北海道からは、地域交通改革部の戸川氏より、JR北海道の現状と課題について、数字を使いながらの詳しい説明がありました。
基本的には、マスコミなどで報道されている内容が中心でしたが、改めて話を聞いてみて、「これは相当厳しい・・・」という感想しか出てきませんでした。
私もほぼ毎日JR北海道を利用している身なのですが、今後JR北海道はどうなってしまうのだろうか・・・と不安になっているのも事実。
この苦難をなんとしてでも打破しなければ、北海道の公共交通はズタズタになってしまう・・・そう思いながら話を聞いていました。
続いて、国土交通省からは、北海道運輸局の佐藤氏より、北海道の鉄道・バス交通の現状についての説明がありました。
この中で、
- 道内の鉄道のキロ数が4,000kmから2,500kmに減少。
- 輸送人員は底から微増。
- ただ、収益は増えておらず、短距離利用が多い。(=札幌圏での利用がメインになっている。)
- JR以外の鉄道・軌道では、近年増加傾向。地下鉄がメイン。
- 乗合バスの輸送人員は、昭和45年の6億3000万人から現在は2億人を割っており、鉄道よりもバスの落ち込みが大きい。
- 一方で、自家用車は昭和45年の433万台から平成28年には2780万台までに増加。
- 道内の道路長も6万7千キロから9万1千キロへ
- 行政の取り組み(モビリティ・マネジメント(jcomm)、地域公共交通活性化再生法に基づく網形成計画・再編実施計画、MaaS、自動運転の実現 など)
後半のパネルディスカッションは「北海道の地域交通をどのように考えるか?」がテーマ
2度目の休憩を挟み、後半のパネルディスカッションへ。パネルディスカッションは、
「北海道の地域交通をどのように考えるか?」
がテーマでした。
パネルディスカッションの前に、交通エコロジー・モビリティ財団松原氏による、高齢者・障害者の移動に関する話題提供(「高齢者・障碍者にとっての移動とは」)と、
中央大学研究開発機構秋山教授による、MaaSに関する話題提供(「交通計画をどのように考えるのか?- MaaSを例に -」)があり、
その後、パネルディスカッションという流れになりました。
パネルディスカッションでは、
- 地域住民の議論、合意形成による数値化(定量化)について(北大岸准教授が回答)
- これからの努力としてのMaaSへの準備(というか経験)について(JR北海道戸川氏が回答)
- 石勝線夕張支線廃止後の新しい交通体系への地域住民の満足度について(JR北海道戸川氏が回答)
- 行政による働きかけで他の施策(火付けとなった)の事例について(国交省佐藤氏が回答)
- バリアフリーをやることによる、北海道において貢献出来ること(エコモ財団松原氏が回答)
『北海道の交通はどうしたらよいのか?』
を、各パネリストがひとことで纏めて発表し、閉幕となりました。
各パネリストのひとことです。
エコモ財団松原氏:公共事業なんですか?
日本の公共交通事業は営利事業。このことに無理があるのでは?
何故に黒字にこだわるのか。
社会全体で公共交通を支える仕組みが必要なのではないのか。
JR北海道戸川氏:地域の皆さんと一体になって取り組むこと
今、JR北海道が非常に苦しい状態で、道民にご迷惑をおかけしている状況。
地域の皆さんと一体になって取り組むことで、鉄路・地域公共交通を維持すべく、今後も努力していく。
国交省佐藤氏:最適化
空気を運ぶことを良しとして果たして良いのか。
現状あるものをしっかり見て、どういったものが求められているのかを考えて実行することが必要。
北大岸准教授:責任
それぞれの責任。
鉄道会社には鉄道会社の責任があり、国には国の責任が、自治体には自治体の責任が、住民には住民の責任がある。
これまで現状を見る限りでは、それぞれが責任感がないままにダラダラと進んでいるのではないだろうか。
人任せにしない、地域が自発的にするべきことをまずやるということを前提とした上で、どうしても市場で成り立たないといった場合には、最後は国の責任・・・ということになるのではないか。
最後に
こうして、約3時間半のセミナーは無事に終了しました。以前の記事で、事業者・自治体関係者向けの地域公共交通系セミナー「第19回 地域バス交通活性化セミナー(札幌)」の模様をご紹介しましたが、
今回のセミナーは、地域公共交通に関心のある関係者や住民向けのプログラムに組み立てられていたいう点で、内容が頭に入りやすかったというのが率直な感想でした。
具体的な数字を挙げながら説明されていたのも好印象でした。
講演や話題提供の内容も、(私的に)既知の情報が多くありましたが、改めて情報整理・論点整理が出来たという点で、個人的には参加出来て良かったのかなぁと思います。
次回開催はまだ未定だそうですが、恐らく年明けになるのではないかとのことで、次回は「航空」をテーマとして取り上げるとのこと。
興味がある方は参加されみてはいかがでしょうか。
応援して頂けると嬉しいです。
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